編集者活動日記

2018年
12月26日

すべての問いに「ありだよ」と
自由の森学園中学・高等学校 図書館司書大江輝行先生

自由の森学園へ、図書館司書の大江輝行先生にお会いするための訪問。

試験の点数による序列、枠組みによる役割分担などを行わず、
本来の学びを実現することを目指して創立された学校で、
生徒の皆さんは基本的に自分の意志で行動を選び、そこに伴う責任を自分で引き受ける。
それは「自立した自由を携えた人生」と表現される。

飯能駅からタクシーに乗って、校門のところで降りた。
5人の生徒さんが坂道ダッシュをしていて、
大江先生が「民族舞踊部の生徒たちなんです」と教えてくださった。
民族舞踊……坂道ダッシュ? と思っていたら、
男の生徒さんが「腰をしっかりさせておくのに
ここでダッシュしたらいいかなと思って。勝手に」
とさりげなく教えてくださった。

これに限らず、ある目的をかなえるためにどの手段を取るか、
そういうことをすべて生徒が自分で考えて自分で行動する。結果への責任を引き受ける。

図書館には驚くほどたくさんの棚がある。
棚の数も多いけれど、文学全集の向かいにはライトノベル、
沖縄問題をテーマにした本の近くに猫の本ばかり集めた棚、
と、幅と奥行きからこの図書館の立体感が見える。
そのことを言うと、この学校の設立に関わったメンバーの
ひとりでもある大江先生はこういうことを話してくださった。

「棚は生徒たちの居場所なんですね。棚の前でみんないろいろなことを考える。
 だからぼくたちは『こんなこと好きな自分ってあり?』
 というすべての問いに『ありだよ』と応えたいと思っています。
 それから、自由の森の教育を受けていると、要求力が向上するんですね。
 図書館はそれらにできる限り応えていきたい。

 そして、教科と連携する図書館であることも学校図書館としては不可欠です。
 左手に授業カリキュラム、右手に先生たちの名簿を持って、
 先生たちの授業の方法や傾向を思い浮かべながら
 学びを手助けできる本を探す。そういうことをふだんやっています。

 学校図書館に大切なのは、『施設・設備』『蔵書』『人』で、
 自由の森に足りないのは一番目、具体的に言えば空間の狭さだから、
 それを逆手に取って、楽譜は音楽研究室に、生活文化や食の本や雑誌は寮や食堂に、
 という感じでいろいろなところに置かせてもらって、
 学校全体が図書館という感じになっています。
 言わば、図書館は『中央図書館』(笑)。

 本を紹介する媒体として、いちばん大きな影響力を持つのは人だと思う。
 だから、例えば文学の魅力を伝えていきたいなら、
 文学の良さを大人がもっとわかって、いいなと思うその感覚に
 自信が持てたらいいですね」

飯能駅から池袋駅までの時間もご一緒して話してしまって、
お忙しいのにすみませんと言ったら、
「いいんですよ、ひとりなら本読んでるだけなんだから……
いやそれはお互いさまか」と笑ってくださった。