選定者私物の本

案内文01

「解放と発見の書」コピーライター・ゆずぽん

選定者

『マチルダは小さな大天才』ロアルド・ダール

コピーライターなのに、最近、小説をほとんど読んでいない。それでも、本が嫌いということではなく、ミーハーなので気になる新刊や、エッセイなどは好きで読んでいる。小説に気がのらない原因のひとつとして考えられるのが、高校生だったころ、先生から“1日1冊読書”のススメがあり、読まなければならないという空気を感じとり、ちょっと無理して読書した反動なのかもしれない。おそらく200冊以上の小説を読んでいたが、その1冊1冊について、感動した、面白かったなどということ以外、ほとんど記憶にない。タイトルさえ覚えていないものもある。しかも、小学生のころから読書感想文が大嫌い。今回、こちらに寄稿することになり、ちょっと困ったな、と正直思ったが、これは読書感想文ではない。先生にも怒られないし、ありがたい機会なので自由に書いてみることにしようと思った。


前置きが長くなった。さて、何の本にしようか。思い出してひさしぶりに読み返したくなり、本屋の児童書コーナーに行って入手したのがこの本、『マチルダは小さな大天才』。小学生から読める本なのだが、高校生の時に偶然出会い、えらく気に入ったのを覚えている。「とにかくスカッとした!」という強烈な読後感があった。ざっくりいうと、才能ある子どもが悪い大人をギャフンと言わせる話で、当時、何かに抑圧されていた自分を解放してくれた。いまあらためて読み返すと、途中の展開なんてすっかり忘れていて、新鮮な気持ちで楽しむことができた。子どもでも、大人でもすぐにその世界へ引き込んでくれる。


ちなみに、私の好きな歌手、宇多田ヒカルも愛読書のひとつとして、この本を紹介している。好きな人と同じ本が好きなのは、ちょっとうれしい。宇多田も何かに抑圧されていたのだろうか、などと勝手に想像してしまう。あるとき、好きなマンガ『ジョジョの奇妙な冒険』を描いた荒木飛呂彦が影響を受けた本として、『チョコレート工場の秘密』(映画『チャーリーとチョコレート工場』の原作)をあげており、気になって買ってみると、なんとこの本と同じ作者ロアルド・ダールだと知る。静かな興奮。好きなものが偶然つながっていたり、いろんな発見があったりすると、また小説を読んでみてもいいかなとも思う。

あらすじ/『マチルダは小さな大天才』ロアルド・ダール 著 宮下嶺夫 訳

幼くして文学や数学に親しむマチルダは、その天才的な頭脳ゆえに両親からも小学校の校長からも疎まれていた。ただひとり、担任の先生だけはそんなマチルダに敬意を抱き、ふたりの間には生徒と教師の立場を超えた友情が生まれる。大人たちに抑圧された才能や好奇心が羽ばたくさまを痛快に描いた物語。世界中に読者を持つイギリスの作家ロアルド・ダールの作品で、これを原作とした映画やミュージカルも作られている。

案内者プロフィール

ゆずぽん。1984年福岡県生まれ。外資系広告会社で働くコピーライター。ドラマや映画、食べることと昼寝が好きなミーハー。愛猫とともにゆるく生息中。

マチルダは小さな大天才

書籍情報

『マチルダは小さな大天才』(1991年評論社から発刊)。
評論社から「ロアルド・ダールコレクション16」として発売中。