選定者私物の本

案内文01

「いつゼロに戻っても怖くない自分であり続けること」
出版企画編集者・岡田 卓

選定者

『裸でも生きる──25歳女性起業家の号泣戦記』山口絵理子

こんなによく泣く姿を描いた“自伝本”を読んだことがない。一見女々しく映る。だけどそれは表面上のことだ。この本の著者は、決してあきらめることがない。とことん最後まで粘り強く立ち向かう。かなり根性のすわった負けず嫌いと言える。

昔から「女の涙は武器」とよく言われる。一般的に“男は女の涙に弱い”という意味合いで使われるが、著者の涙は違う。自分の気がすむまで泣き続けるが、涙が枯れると次なる挑戦へと歩み出す。涙を未来への糧とすることで、立派な「武器」にしてみせるのである。


『裸でも生きる』は、アジアの最貧国と呼ばれるバングラデシュに一人で渡り、現地で採れるジュート(黄麻=黄金の糸)を使って、現地の人々と協働しながら、“MOTHER HOUSE”のブランドバッグ等を製造する会社を立ち上げ、成功に導いた若い女性の奮闘物語である。

著者が一大決心するまでの経歴がまず凄まじい。少女期にいじめに遭って引き籠るも、逃げたくない一心で克服。中学生になると、自分の気持ちに素直になりたくて非行に走るも、自分の弱さに気づき更生。その後は強くなりたいと柔道に打ち込み、あえて名門男子柔道部のある高校へ進学し、ボロボロになりながら地獄の練習を耐え切る。そして大学生時代、「社会を変えるようなことをしたい」と心に決めて、インターンとして米国ワシントンの国際機関で途上国援助の仕事に携わる。が、わずか数日で矛盾を感じ、「現場を見たい」との思いだけでバングラデシュへと旅立ち、日本人初の現地大学院生として2年間滞在する。


そこで辿り着いたのが、途上国に必要なのは“施し”ではなく、先進国と対等な経済活動である──という強い信念である。この信念の実現に向けて、本題の物語がスタートする。

バングラデシュでの工場探し、現地スタッフと一緒になってのバッグづくり、日本へ戻っての資金づくり、バッグの職人への弟子入り等々。その一方で、現地で信じていた人たちから幾度となく裏切られる。とくに、本書も終盤に近づいた頃に描かれる場面では、全財産はおろか、それまで現地で築き上げてきたすべてを失ってしまう。読み進めていた誰もが、さすがにもう立ち上がれないな、と確信するだろう。著者は数日間にわたり涙が枯れるまで泣き続ける。そして泣き止むと、「もう辞めよう」という心の声を振り払って、実現不能にもみえる闘いに再び挑むのである。

「他人にどう言われようが、他人にどう見られ評価されようが、たとえ裸になってでも自分が信じた道を歩く」

このゼロからの再スタートは、二度と裏切られない「仕組み」を作るための、信頼関係の積み重ねから始まった。失敗の経験を最大限に活かすその冷静沈着さ、そして若さならではのみなぎるバイタリティが、たくさんの涙を多くの人たちの笑顔へと変換する。

あらすじ/『裸でも生きる 25歳女性起業家の号泣戦記』山口絵理子

途上国発のバッグブランド「マザーハウス」の創業者・デザイナーである山口絵里子さんが、生い立ちから起業までを綴った一冊。世界の貧困を自身の目で見ようと渡ったバングラデシュで、山口さんは、現地の人々をスタッフとして雇用し、現地の文化・生活習慣を尊重し、現地の豊かな素材を用いてバッグ作りに取り組む。山口さんが目指したのは、人々が「途上国支援のために買う」のではなく、「かわいいから・ほしいから買う」途上国発のブランドを作ることだった。

案内者プロフィール

岡田卓。1958年東京都生まれ。株式会社アピックス代表。企業・学校等の周年史・コンセプトブック等の企画・ライティング・編集に携わる一方、「中国(生活文化)」「人物」「ニッポン(伝統文化×ing)」などに関する出版企画に取り組む。近年は「行動なくして前進なし」をモットーに、“凄い!”と感じた魅力的な「人」を取材し、自社のWeb雑誌で情報発信する試みに力を入れつつある。

裸でも生きる

書籍情報

『裸でも生きる 25歳女性起業家の号泣戦記』(2007年講談社より発刊)
単行本・文庫本(講談社+α文庫)ともに発売中。